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コインの回転(前回の続き)

前回()のあらすじ...
コインの端を綺麗にトスした場合のコインの裏表が予測できるようになった.
今回はこれの続きとして, コインを適当にトスした場合の動きを考えたいと思う.
実はコインは対称性がとても良いので, 今から書くような難しいことを考えなくても運動を記述できるのだが, (2) 式の応用の良い例だと思ったので使用した.

剛体の運動のまとめ

空間内の剛体の運動を知るには, その剛体の姿勢の情報と回転の情報が必要となる.
以下では x , y , z 座標は観測者の座標系で, 1 , 2 , 3 座標は剛体上の座標系とする.
剛体の姿勢について記述するには, Euler角(Wikipedia: オイラー角) というものがよく用いられる.
これは3つの座標軸に関する回転を組み合わせたもので, 図1のようになっている.

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図1 Euler角の表現
まず z 軸の周りに \alpha 回転させ, x', y', z' 軸を作る.
次に y' 軸の周りに \beta 回転させ, x'', y'', z'' 軸を作る.
最後に z'' 軸の周りに \gamma 回転させ, x''', y''', z''' 軸を作る.

ここで, 図1に記されている回転前の軸の取り方は任意ではあるが, 剛体それぞれに固有の「慣性主軸(principal axes)」(Wikipedia: 慣性主軸)と呼ばれる軸を選ぶことが多い.
図1より, Euler角 (0,0,0)(観測者の座標系)から (\alpha,\beta,\gamma)(剛体上の座標系)への変換行列 S は \begin{align} &S = \begin{pmatrix} \cos\gamma & \sin\gamma & 0 \\ -\sin\gamma & \cos\gamma & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \cos\beta & 0 & -\sin\beta \\ 0 & 1 & 0 \\ \sin\beta & 0 & \cos\beta \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \cos\alpha & \sin\alpha & 0 \\ -\sin\alpha & \cos\alpha & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} \cos\alpha\cos\beta\cos\gamma-\sin\alpha\sin\gamma & \sin\alpha\cos\beta\cos\gamma+\cos\alpha\sin\gamma & -\sin\beta\cos\gamma \\ -\cos\alpha\cos\beta\sin\gamma-\sin\alpha\cos\gamma & -\sin\alpha\cos\beta\sin\gamma+\cos\alpha\cos\gamma & \sin\beta\sin\gamma \\ \cos\alpha\sin\beta & \sin\alpha\sin\beta & \cos\beta \end{pmatrix} \end{align} となる(逆変換はこれの転置行列である).
つまり x , y , z 座標から 1 , 2 , 3 座標への変換を 行列 S で表すことができる.

次に, 剛体の回転について記述する.
これには, ある瞬間の回転軸とその軸の周りの角速度が必要になる.
これをまとめて角速度ベクトルという1つのベクトルで表す: \begin{align} \boldsymbol{\omega}_{(1,2,3)} = \begin{pmatrix} \omega_1 \\ \omega_2 \\ \omega_3 \end{pmatrix}, \qquad \omega=\sqrt{\omega_1^2+\omega_2^2+\omega_3^2}. \end{align} \omega が角速度, \boldsymbol{\omega}_{(1,2,3)} が剛体上の座標系における回転軸を表す. \boldsymbol{\omega} によって \alpha , \beta , \gamma は変化し, それは \begin{align} \begin{pmatrix} \omega_1 \\ \omega_2 \\ \omega_3 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \dot{\beta}\sin\gamma-\dot{\alpha}\sin\beta\cos\gamma \\ \dot{\beta}\cos\gamma+\dot{\alpha}\sin\beta\sin\gamma \\ \dot{\alpha}\cos\beta+\dot{\gamma} \end{pmatrix} \tag{1} \end{align} という関係で結ばれる(証明は[1], [2]など).
ただし \dot{} は時間による微分を表す.

最後に, 観測者の座標系における角運動量 \boldsymbol{L}_{(x,y,z)}(これも運動量と同様ベクトル量である)について, \begin{align} \frac{d\boldsymbol{L}_{(x,y,z)}}{dt}=\boldsymbol{N}, \qquad \boldsymbol{L}_{(x,y,z)}= \begin{pmatrix} I_x\omega_x \\ I_y\omega_y \\ I_z\omega_z \end{pmatrix} \end{align} が成り立つ.
ここで, \boldsymbol{N} は剛体に加えられる外力のモーメントであり, I_x などは x 軸の周りの慣性モーメントである.
外力が重力のみの場合そのモーメントは 0 なので, \boldsymbol{L} は定ベクトルである.
すなわち, 剛体の運動方程式は \begin{align} S\boldsymbol{L}_{(x,y,z)} = \begin{pmatrix} I_1\omega_1 \\ I_2\omega_2 \\ I_3\omega_3 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} I_1(\dot{\beta}\sin\gamma-\dot{\alpha}\sin\beta\cos\gamma) \\ I_2(\dot{\beta}\cos\gamma+\dot{\alpha}\sin\beta\sin\gamma) \\ I_3(\dot{\alpha}\cos\beta+\dot{\gamma}) \end{pmatrix} \tag{2} \end{align} となる.

例題

例えば前回の設定でコインをトスする(図2).
はじめ x 軸と 2 軸, y 軸と 3 軸, z 軸と 1 軸が一致している.
コインの慣性モーメントは \begin{align} I_1=I_2=I, \quad I_3=2I. \end{align} t=0 でコインは \boldsymbol{L}_{(x,y,z)}=(0, 0, -I\omega)角運動量を得るので, (2) 式より \begin{align} \omega\sin\beta\cos\gamma &= \dot{\beta}\sin\gamma-\dot{\alpha}\sin\beta\cos\gamma, \\ -\omega\sin\beta\sin\gamma &= \dot{\beta}\cos\gamma+\dot{\alpha}\sin\beta\sin\gamma, \\ -\omega\cos\beta &= 2(\dot{\alpha}\cos\beta+\dot{\gamma}). \end{align} これを解いて \begin{align} \dot{\alpha} = -\omega, \quad \dot{\beta}= 0, \quad \dot{\gamma}= \frac{1}{2}\omega\cos\beta \end{align} より, \begin{align} &\alpha = -\pi/2-\omega t, \quad \beta= \pi/2, \quad \gamma= 0, \\ &\omega_1 = \omega, \quad \omega_2= 0, \quad \omega_3= 0, \\ &\omega_x = 0, \quad \omega_y = 0, \quad \omega_z = -\omega \end{align} と角速度ベクトルが保存されていることが分かる.

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図2 観測者の座標系とコイン上の座標系 図3 コイン上適当な位置に加わる力積

今回の問題

図3は今回の問題設定を図にしたものである(一部記号は前回からの流用である).
コイン上の点 (x,h_0,z) に力積 {\boldsymbol{J}=(J_1, J_2,J_3)} を加えた場合, コインが得る角運動量は \begin{align} \boldsymbol{L}=\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{J} = \begin{pmatrix} -J_2z \\ J_1z-J_3x \\ J_2x \end{pmatrix}. \end{align} ここで, \times はベクトルの外積を表し, 2つのベクトル (a,b,c), (d,e,f) に対して \begin{align} \begin{pmatrix} a \\ b \\ c \end{pmatrix} \times \begin{pmatrix} d \\ e \\ f \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} bf-ce \\ cd-af \\ ae-bd \end{pmatrix} \end{align} なるベクトルを返す.
これを (2) 式に代入すると, 3つの連立微分方程式 \begin{align} \dot{\alpha}&= \frac{J_2z}{I}\cos\alpha\cos\beta-\left(\frac{J_1z}{I}-\frac{J_3x}{I}\right)\sin\alpha\cos\beta +\frac{J_2x}{I}\sin\beta, \\ \dot{\beta} &= \frac{J_2z}{I}\sin\alpha+\left(\frac{J_1z}{I}-\frac{J_3x}{I}\right)\cos\alpha, \\ \dot{\gamma}&= -\frac{J_2z}{I}\cos\alpha\left(\frac{1}{2}\sin\beta+\cos^2\beta\right) +\left(\frac{J_1z}{I}-\frac{J_3x}{I}\right)\sin\alpha\left(\frac{1}{2}\sin\beta+\cos^2\beta\right) \\ &\quad+\frac{J_2x}{I}\left(\frac{1}{2}-\sin\beta\right)\cos\beta \end{align} を得る(特に {x=d}, {z=0}, {J_3=0} とすれば前回の状況となる).
これを解析的に解くことは一般には不可能であるが, 数値的には求めることができる.
これによりコインが y 軸方向に自由落下し床と衝突する時刻は \begin{align} h(t) = h_0 + v_{y,0} t-\frac{1}{2}gt^2 - d|\sin\alpha| \end{align} が 0 となる最小の t と求まり, そのときに床からコインに与えられる角運動量の大きさも求めることができる.
後はこれを繰り返せばコインの裏表も計算できるであろう.

参考文献

[1] http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/material/theory2/takahash/CMech/part3.pdf, 第5章 剛体の運動, 高橋 慶紀.
[2] 力学(三訂版), 原島 鮮, 裳華房, p.201-218 (1985).