電子ビームを曲げる

今回は青少年のハートをくすぐる「ビーム」について書こうと思う.
ただしビームといっても様々な種類がある(Wikipedia: ビーム).
今回取り扱おうと思っているのは電子のビームであるが, 例えば太陽光線やレーザー光線もビームの一種である.
電子ビームの最も身近な例はブラウン管(Wikipedia: ブラウン管)だと思うが, 最近ではブラウン管は身近でもなんでもないかもしれない....

ブラウン管は電子ビームを蛍光板に当てることで画像を表示している.
しかし広い画面全体に画像を表示するためには, 電子ビームを曲げる必要がある.
それには平行平板コンデンサを用いる(図1).
コンデンサ内部には電場が存在し, 電子ビームはCoulombの法則に従って電場から力を受けて, その結果向きを変える.

コンデンサの電場でビームを曲げる

コンデンサの上下の平板に電圧が加えられると, その平板には電荷が蓄えられる.
その際加えた電圧と蓄えられる電荷には Q=CV の関係があることが知られている.
ここで Q は平板に蓄えられた電荷(の絶対値), C は電気容量と呼ばれる定数, Vコンデンサに印加された電圧である.
また, 平板間の距離を d とすれば, コンデンサ内部の電場 EE=V/d で与えられる.
より一般的な議論をするために, 以下では質量 m, 電荷 q の荷電粒子を扱う(電子では m=9.109\ldots\times10^{-31}~\mathrm{kg}, q=-1.602\ldots\times10^{-19}~\mathrm{C} である).
そうすれば, この荷電粒子が電場 \boldsymbol{E} から受ける力 \boldsymbol{F}\boldsymbol{F}=q\boldsymbol{E} である.

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図1 平行平板コンデンサ 図2 コンデンサに荷電粒子を入射させる

ビームの偏向量

以下で荷電粒子ビームがこのコンデンサでどれくらい曲げられるかを求める.
荷電粒子に働く電磁気力以外は全て無視し, ベクトルの第1成分は水平右向きを正, 第2成分は鉛直上向きを正とする.
上下の平板を長さ a , 奥行き b とし, これらを幅 d=2c で配置してコンデンサとする.
このコンデンサちょうど真ん中に質量 m, 電荷 q の荷電粒子 \mathrm{P} を速度 \begin{align} \boldsymbol{v} = \begin{pmatrix} v \\ 0 \end{pmatrix} \end{align} で入射させる(図2).
(入射位置がちょうど真ん中かどうかで \mathrm{P} の運動は少し変化する. これについては次回解説したい.)

コンデンサ内の電場の水平方向成分は 0 で, 鉛直方向成分は -V/d である.
つまりコンデンサ内での \mathrm{P}運動方程式は \begin{align} m\frac{d\boldsymbol{v}}{dt} = \boldsymbol{F} = q\boldsymbol{E}= \begin{pmatrix} 0 \\ -qV/d \end{pmatrix} \end{align} となる.
よってこれを時間で積分すれば \boldsymbol{v} の時間発展が求まる.
その時間の範囲は, \mathrm{P}コンデンサ内にあるという条件から, 入射した瞬間を t=0 として 0\leq t \leq a/v である.
よって上の時間の範囲では \boldsymbol{v} は \begin{align} \boldsymbol{v} = \begin{pmatrix} v \\ -\displaystyle\int_{t'=0}^{t'=t} \frac{qV}{dm} dt' \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} v \\ -\frac{qV}{dm}\,t \end{pmatrix} \end{align} となる.
次に, \mathrm{P} がいったんコンデンサの外に出てしまえば, \mathrm{P} は等速直線運動をする.
よって, {t \geq a/v} での \mathrm{P} の位置 \boldsymbol{x} は, \mathrm{P} の入射地点を原点として \begin{align} \boldsymbol{x} &= \int_{t'=0}^{t'=t} \boldsymbol{v}\,dt' \\ &= \int_{t'=0}^{t'=a/v} \boldsymbol{v}\,dt' + \int_{t'=a/v}^{t'=t} \boldsymbol{v}\,dt' \\ &= \begin{pmatrix} a \\ -\frac{qV}{2dm}\left(\frac{a}{v}\right)^2 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} v(t-a/v) \\ -\frac{qV}{dm}\frac{a}{v}\left(t-\frac{a}{v}\right) \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} vt \\ -\frac{aqV}{dm{v}}\left(t-\frac{a}{2v}\right) \end{pmatrix} \tag{1} \end{align} と求まる.
よって原点をコンデンサの中心にとって第2成分の定数項を落とすと, 偏向量 D は \begin{align} D=\frac{aqV}{dm{v^2}} \end{align} となる.

ところで, 速度 \boldsymbol{v} の荷電粒子はどうやって用意したのだろうか?
荷電粒子に速度を与えるには, 進行方向に電圧を加えてやればよい.
加速電圧 V_0 で加速された初速度 0 の荷電粒子は \begin{align} qV_0=\frac{1}{2}mv^2 \end{align} というエネルギー保存の式に従って速度 v を得る.
これをそのまま \mathrm{P} としてコンデンサに導入してやったと考えると, \begin{align} D = \frac{aqV}{d\,2qV_0} = \frac{a}{2d} \frac{V}{V_0} \tag{2} \end{align} となって, 偏向量 D は荷電粒子の質量や電荷の大きさに依存しない (ただし偏向する向きは荷電粒子の電荷の正負で逆になる).
このように静電場によって荷電粒子線の向きを曲げることを, 「静電偏向(Electrostatic deflection)」と呼ぶ.