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電子ビームを曲げつつ収束させる

電子ビームなどの荷電粒子ビームには, 「自己発散(self-defocusing)」と呼ばれる問題がある(self-broadeningでも同じ意味だと思う).
これは, ビームを構成する粒子がCoulomb力によりお互いに反発しあうため, ビームが空間を進む間に広がってしまうという現象を指す.
この自己発散現象のために, 荷電粒子ビームを取り扱う際にはビームを収束させるレンズのようなものが必要になる.
前回()は平行平板コンデンサで電子ビームをどれだけ曲げられるかについて議論したが, 今回は平行平板コンデンサで電子ビームを収束させる.

コンデンサの端での電場による偏向量の変化

前回の議論においてコンデンサが電子ビームを収束させうる要因はどこにもなかったが, それは前回の議論がコンデンサの端での電場を考慮しなくて良い条件のみを扱っていたからである.
荷電粒子を平行平板コンデンサの「ちょうど真ん中」ではない部分から入射させるとどうなるか? という問題においては, コンデンサの端での電場を考える必要がある.
現実のビームには幅があるのだから, これは自然な仮定である.
荷電粒子 \mathrm{P} の入射位置を, ちょうど真ん中から \delta-c\lt\delta\lt c)だけ上にずらす(図1).
この入射点でのCoulombポテンシャル \phi(回路における電圧のようなもの)は 0 ではないので, \mathrm{P} はこのポテンシャルに起因する力を受けることになる(図2).

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図1 コンデンサに荷電粒子を入射させる 図2 コンデンサの端での電場

以下 \delta\gt0 とする.
荷電粒子 \mathrm{P} はポテンシャル \phi=\phi(\delta) が作る電場から力を受け, その力の向きは進行方向と逆向きである(図2).
このポテンシャルの大きさは, 次のように求まる:
\phi(0)=0, \phi(c)=V/2, \phi\delta が比例関係にあるとして, \phi=\delta V/2c. *1
コンデンサからある程度離れた場所での \mathrm{P} の速度を \begin{align} \boldsymbol{v}=\begin{pmatrix} v \\ 0 \end{pmatrix} \end{align} とすれば, \mathrm{P}コンデンサに入射する瞬間の速度 \boldsymbol{v}' は \begin{align} \boldsymbol{v}'=\begin{pmatrix} v' \\ 0 \end{pmatrix}, \quad v' = \sqrt{v^2-\frac{2q\phi}{m}} = \sqrt{v^2-\frac{2\delta qV}{dm}} \end{align} となり, \mathrm{P}コンデンサ内にいる時間の範囲は 0 \leq t \leq a/v' となる.
すると 0 \leq t \leq a/v' での \mathrm{P} の速度は \begin{align} \boldsymbol{v}=\begin{pmatrix} v' \\ -\frac{qV}{2dm}t \end{pmatrix} \end{align} となり, t\gt a/v' での \mathrm{P} の位置 \boldsymbol{x} は \begin{align} \boldsymbol{x} &= \begin{pmatrix} 0 \\ \delta \end{pmatrix} + \int_{t'=0}^{t'=t} \boldsymbol{v}dt' \\ &= \begin{pmatrix} 0 \\ \delta \end{pmatrix} + \int_{t'=0}^{t'=a/v'} \boldsymbol{v}dt' + \int_{t'=a/v'}^{t'=t} \boldsymbol{v}dt' \\ &= \begin{pmatrix} 0 \\ \delta \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} a \\ -\frac{qV}{2dm}\left(\frac{a}{v'}\right)^2 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} v'(t-a/v') \\ -\frac{qV}{dm}\frac{a}{v'}\left(t-\frac{a}{v'}\right) \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} v't \\ \delta-\frac{aqV}{dm{v'}}\left(t-\frac{a}{2v'}\right) \end{pmatrix} \tag{3} \end{align} と求まる(\delta\lt0 のときも全く同様).
よって, このときの偏向量 D(\delta) は \begin{align} D(\delta) = \frac{aqV}{dm{v'}^2} = \frac{1}{v^2-\frac{2\delta qV}{dm}} \frac{aqV}{dm} \tag{4} \end{align} となる.
もちろん \delta=0 のときは前回の結果と一致し, \delta が大きくなるほど偏向量も大きくなるとわかる.
つまり, 定性的にはこのコンデンサにはビームを収束させる効果があると分かる.

平行平板コンデンサ焦点距離

ではこのコンデンサ焦点距離を具体的に求める (ビームが偏向しているので焦点距離という言葉は適切でないかもしれないが).
\delta の位置に入射したビームの軌跡の方程式は, (3) 式から時間 t を消去した \begin{align} y = \delta-\frac{1}{v^2-\frac{2\delta qV}{dm}}\frac{aqV}{dm}\left(x-\frac{a}{2}\right) \end{align} であり, \delta が十分小さいならば \begin{align} y \approx \delta-\left(1+\frac{2\delta qV}{dm{v}^2}\right)\frac{aqV}{dm{v}^2}\left(x-\frac{a}{2}\right) \tag{5} \end{align} と近似できる.
この近似はビーム径がコンデンサの幅に比べて十分小さければ正当化される.
(5) 式を少し変形して, 前回用いた加速電圧 \begin{align} V_0:=\frac{mv^2}{2q} \end{align} を用いると, \begin{align} y+\frac{aV}{2dV_0}\left( x-\frac{a}{2} \right) = \delta \left( 1-\frac{a}{2d^2} \left( \frac{V}{V_0} \right)^2 \left(x-\frac{a}{2} \right) \right) \end{align} となる.
これは, (5) 式で表される直線の族が \delta の値によらず定点 \begin{align} \left\{ \begin{matrix} \displaystyle y+\frac{aV}{2dV_0}\left(x-\frac{a}{2}\right)=0 \\ \displaystyle 1-\frac{a}{2d^2}\left(\frac{V}{V_0}\right)^2\left(x-\frac{a}{2}\right) =0 \end{matrix} \right. \quad\Leftrightarrow\quad (x,y) = \left(\frac{a}{2}+\frac{2d^2}{a}\left(\frac{V_0}{V}\right)^2, -d\,\frac{V_0}{V} \right) \end{align} を通ることを意味する.
つまり平行平板コンデンサ焦点距離は, x 方向に \begin{align} \frac{2d^2}{a}\left(\frac{V_0}{V}\right)^2, \end{align} y 方向に \begin{align} d\,\frac{V_0}{V} \end{align} であると求まった.

以上に示したように, 平行平板コンデンサは静電偏向作用だけでなく, レンズとしての役割も持つ.
この意味で平行平板コンデンサを静電偏向レンズと呼んでもいいかもしれない.

参考文献

[1] Electrostatic Deflection Plates for Cathode-Ray Tubes, Frenkel, L., Journal of Research of the National Bureau of Standards, Section C: Engineering and Instrumentation, Vol. 64C, p.103-113 (1960).

*1:2017/5/2追記 これはこの記事で証明した: 3次元の静電位 その1(境界値問題3).