今日は3次元空間における電位を求めたい.
1ヶ月ほど前に, コンデンサの端での電位について少し触れた(■).
しかしそのときは各位置での電位は詳しくは必要なかったし, それ以外の部分をテーマにしていたので,
電位の求め方はかなり適当だったと思う.
そこで今回はこの, 平行平板コンデンサの電位について詳しく議論したい.
電位を求める式
まず, 真空中の電位 が満たすべき式を導く.
簡単のために を1次元だとすると, 電場 は電位 の傾きであるから,
\begin{align}
\frac{d\phi}{dx}=E. \tag{1}
\end{align}
次に, 電場 についてはGaussの法則(Wikipedia: ガウスの法則)
\begin{align}
\frac{dE}{dx}=\frac{\rho}{\epsilon_0} \tag{2}
\end{align}
が成り立つ.
ここで, は(真空の)誘電率と呼ばれる定数で,
は空間内の電荷の分布を表す.
すなわち, 真空中では, 式と 式をあわせた
\begin{align}
\frac{d^2\phi}{dx^2}=\frac{\rho}{\epsilon_0}
\end{align}
が成り立ち, 特に空間電荷がない場合にはこの式は
\begin{align}
\frac{d^2\phi}{dx^2}=0
\end{align}
となる.
これを3次元空間に拡張した場合, 空間電荷がない位置での電位が満たす式は
\begin{align}
\left[\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}
+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right]\phi=0 \tag{3}
\end{align}
となる(前回(■)
に見たラプラス作用素を3次元に拡張したもの, 3次元Laplacianが現れているのは重要である).
問題設定
図1 平行平板コンデンサの形状 |
図1のように, 幅 , の金属平板2枚を, 距離 離して空間内に置く.
この平板の組に電圧を与えて, 上側の金属板には一様に の電位を,
下側の金属板には一様に の電位を与えるとする.
このときの空間電位はどうなっているのであろうか?
先のこの問題を解くためには次のような方程式を解く必要がある:
\begin{align}
&\left[\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}
+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right]\phi=0, \\
&\phi(\mathrm{upper~plate})=V/2, \tag{4} \\
&\phi(\mathrm{lower~plate})=-V/2.
\end{align}
この方程式はあまりに複雑なので, 変数分離によって解を得ることが出来ない(と思う).
よって以下では, Green関数(Wikipedia: グリーン関数)というものを用いてこの問題を解く.
グリーン関数による解法
グリーン関数というのは,
ある位置 での原因が他の位置 に及ぼす結果の大きさを,
1つの式で表したものである.
例えば, 位置 にある電荷 の点電荷が
位置 に及ぼす電位の大きさ は,
\begin{align}
G(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2)
=\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{q}{|\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2|} \tag{5}
\end{align}
である.
この 式の重ね合わせによって求まる電位は, 式を満たす(証明略).
よって, 平行平板上の微小部分の微小な電荷が作る電位を重ね合わせたものは,
式の解になるであろう.
2枚の平板が にあるとする直交座標系を用いれば, 平板上の点は,
(, )と表される.
平面上の電荷密度を とすれば, は の関数
である.
次に, 点 付近の微小電荷が観測点
に及ぼす電位の大きさ は,
\begin{align}
G(p,q,c,x,y,z)
&= \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{\rho}{|(p,q,c)-(x,y,z)|} \\
&= \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{\rho(p,q)}{\sqrt{(p-x)^2+(q-y)^2+(c-z)^2}} \tag{6}
\end{align}
である.
よって, 観測点 の電位は, 式を上下の金属平板全体で積分した,
\begin{align}
\phi(x,y,z) &= \int_{-a/2}^{a/2}dp \int_{-b/2}^{b/2}d{}q G(p,q,c,x,y,z)
+\int_{-a/2}^{a/2}dp \int_{-b/2}^{b/2}d{}q G(p,q,-c,x,y,z) \\
&= \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int_{-a/2}^{a/2}dp \int_{-b/2}^{b/2}d{}q \\
&\left[\frac{\rho(p,q)}{\sqrt{(p-x)^2+(q-y)^2+(c-z)^2}}
+\frac{-\rho(p,q)}{\sqrt{(p-x)^2+(q-y)^2+(c+z)^2}}\right] \tag{7}
\end{align}
である( と の電荷分布は, 正負が異なるだけで対称であるべきなので).
同じ符号の電荷同士は反発しあうので, は定数ではない
(わずかだが に伴って増加する).
よって空間電位の具体的な形状は, 式が 式の境界条件を満たすように
をシミュレートする必要がある.
図2に, , , ,
としたシミュレーション結果を添付する.
なお, この計算にはソフトウェアSIMIONを用いた.
図2 平行平板コンデンサの電位シミュレーション |
しかしこの結果だけではあまり面白くないので, 以下で が定数であるとして計算を続けてみる.
さらに, 観測点は , に限るとする.
これは, 電位を全空間に渡って求めるのはかなり大変だからであり,
また我々が今興味があるのが,
電子ビームを曲げつつ収束させる
で用いた, コンデンサの中心付近の電位だからである.
まず, では, 式は
\begin{align}
\phi(x,0,z) = \frac{\rho}{4\pi\epsilon_0}\int_{-a/2}^{a/2}dp \int_{-b/2}^{b/2}d{}q
\left[\frac{1}{\sqrt{(p-x)^2+q^2+(c-z)^2}} - \frac{1}{\sqrt{(p-x)^2+q^2+(c+z)^2}}\right]
\end{align}
となる.
次に, では, 上式は
\begin{align}
\frac{1}{\sqrt{(p-x)^2+q^2+(c-z)^2}}
&= \frac{1}{\sqrt{(p-x)^2+q^2+c^2+z^2}}\left[1-\frac{2cz}{(p-x)^2+q^2+c^2+z^2}\right]^{-1/2} \\
&\approx \frac{1}{\sqrt{(p-x)^2+q^2+c^2+z^2}}\left[1+\frac{cz}{(p-x)^2+q^2+c^2+z^2}\right]
\end{align}
となる.
ここで, のときに成り立つ近似式
\begin{align}
(1+x)^a \approx 1+ax+\frac{a(a-1)}{2}x^2 \tag{8}
\end{align}
のはじめの2項を用いた.
以上を合わせると, 式から近似的に
\begin{align}
\phi(x,0,z) \approx \frac{\rho}{4\pi\epsilon_0}\int_{-a/2}^{a/2}dp \int_{-b/2}^{b/2}d{}q
\frac{2cz}{\left((p-x)^2+q^2+c^2+z^2\right)^{3/2}} \tag{7$^\prime$}
\end{align}
が導かれる.
よってあとはこれを積分して,
\begin{align}
&\phi(x,0,z) \approx \frac{2\rho cz}{4\pi\epsilon_0}\int_{-a/2}^{a/2}dp \int_{-b/2}^{b/2}d{}q
\frac{1}{\left((p-x)^2+q^2+c^2+z^2\right)^{3/2}} \\
&= \frac{2\rho cz}{4\pi\epsilon_0}\int_{-a/2}^{a/2} \frac{dp}{\left((p-x)^2+c^2+z^2\right)^{3/2}}
\int_{-b/2}^{b/2}d{}q \left[1+\left(\frac{q}{\sqrt{(p-x)^2+c^2+z^2}}\right)^2\right]^{-3/2} \\
&= \frac{2\rho cz}{4\pi\epsilon_0}\int_{-a/2}^{a/2} \frac{dp}{(p-x)^2+c^2+z^2}
\int_{-\beta}^{\beta}\frac{d\theta}{\cos^2\theta}\cos^3\theta \\
&= \frac{2\rho cz}{4\pi\epsilon_0}\int_{-a/2}^{a/2} \frac{dp}{(p-x)^2+c^2+z^2}
\frac{2\frac{b/2}{\sqrt{(p-x)^2+c^2+z^2}}}{\sqrt{1+\frac{b^2/4}{(p-x)^2+c^2+z^2}}} \\
&= \frac{2\rho cz}{4\pi\epsilon_0}\int_{-a/2}^{a/2}
\frac{bdp}{((p-x)^2+c^2+z^2)\sqrt{(p-x)^2+c^2+z^2+b^2/4}} \\
&= \frac{2\rho cz}{4\pi\epsilon_0}\int_{t_-}^{t_+}
\frac{b\sqrt{c^2+z^2+b^2/4}\,dt}{(c^2+z^2+b^2t^2/4)\sqrt{c^2+z^2+b^2/4}} \\
&= \frac{\rho}{4\pi\epsilon_0}\frac{2cz}{c^2+z^2}\int_{t_-}^{t_+} \frac{bdt}{1+\frac{b^2}{4(c^2+z^2)}\,t^2} \\
&= \frac{\rho}{4\pi\epsilon_0}\frac{2cz}{c^2+z^2}\int_{\alpha_-}^{\alpha_+}
\frac{2\sqrt{c^2+z^2}}{b}\frac{bd\varphi}{\cos^2\varphi}\cos^2\varphi \\
&= \frac{\rho}{4\pi\epsilon_0}\frac{4cz}{\sqrt{c^2+z^2}}[\alpha_+ - \alpha_-]. \tag{9}
\end{align}
ただし2行目から3行目は
\begin{align}
&\frac{q}{\sqrt{(p-x)^2+c^2+z^2}}=\tan\theta, \quad d{}q=\sqrt{(p-x)^2+c^2+z^2}\frac{d\theta}{\cos^2\theta} \\
&\tan\beta=\frac{b/2}{\sqrt{(p-x)^2+c^2+z^2}}
\end{align}
と置換し, 3行目から4行目は
\begin{align}
\tan\beta=A \Leftrightarrow \sin\beta=\frac{A}{\sqrt{1+A^2}}
\end{align}
を用いた. 5行目から6行目は
\begin{align}
(p-x)^2 &= \left(c^2+z^2+\frac{b^2}{4}\right)\frac{t^2}{1-t^2} \Leftrightarrow
t=\frac{p-x}{\sqrt{(p-x)^2+c^2+z^2+b^2/4}}, \\
dp &= \frac{\sqrt{c^2+z^2+b^2/4}}{(1-t^2)^{3/2}}dt, \quad
t_\pm = \frac{\pm a/2-x}{\sqrt{(\pm a/2-x)^2+c^2+z^2+b^2/4}}
\end{align}
と置換し, 7行目から8行目は
\begin{align}
&\frac{b}{2\sqrt{c^2+z^2}}\,t=\tan\varphi, \quad dt=\frac{2\sqrt{c^2+z^2}}{b}\frac{d\varphi}{\cos^2\varphi} \\
&\tan\alpha_\pm=\frac{b}{2\sqrt{c^2+z^2}}\,t_\pm
\end{align}
と置換した.
最後に, コンデンサについて成り立つ次の公式
\begin{align}
Q=\rho ab =CV, \quad C=\epsilon_0 \frac{ab}{d}
\end{align}
( はコンデンサの電気容量)から導かれる式
\begin{align}
\rho=\epsilon_0 \frac{V}{d}
\end{align}
を 式に用いて,
\begin{align}
&\phi(x,0,z) \approx \frac{V}{4\pi d}\frac{4cz}{\sqrt{c^2+z^2}}[\alpha_+ - \alpha_-] \\
&= \frac{V}{\pi}\frac{z}{\sqrt{d^2+4z^2}}
\left[ \tan^{-1}\frac{b}{\sqrt{d^2+4z^2}}\frac{a/2-x}{\sqrt{(a/2-x)^2+z^2+b^2/4+d^2/4}} \right. \\
&+ \left. \tan^{-1}\frac{b}{\sqrt{d^2+4z^2}}\frac{a/2+x}{\sqrt{(a/2+x)^2+z^2+b^2/4+d^2/4}} \right] \tag{10}
\end{align}
が得られる.
結果の検証
図3に上で得られた結果をプロットした.
条件は図2と同じ
, , ,
としたが, この結果は でしか正しくないことに注意する必要がある.
特に, のときの の 依存は図4のようになる.
これを見れば では は に関して1次であるとわかる.
図3 電位の計算結果 | 図4 での と |