今回は3次元弾性体(力を加えると変形するが, 力を取り除くと元に戻る物体のこと)におけるHookeの法則
(Wikipedia: フックの法則)
を導出する.
これは連続体力学や材料力学
(Wikipedia: 連続体力学,
材料力学)
にかかわる法則であるが, 長くなってしまったのでこれだけで1つの記事とした.
Hookeの法則といえば, ばねにかかる力 とばねの伸び を結ぶ関係式 が有名である
( はばね定数).
この記事では, ばねにおける と同様の式を, 3次元固体について得ることを目標に進める.
ただし, 連続体力学では力の代わりに単位面積あたりの力(つまり圧力)が
「応力(stress, Wikipedia: 応力)」
として用いられ, 同様に変位の代わりに単位長さあたりの変位が
「ひずみ(strain, Wikipedia: ひずみ)」
として用いられる.
それゆえ, 得られる式としては 応力比例定数ひずみ となる.
なお, 以下で取り扱う物体は等方的である(向きによらず性質が同じ)とし,
また重力や電磁気力などの外力は全て無視する.
3次元物体の変位
まず右辺の を3次元物体に対してどう定義するかを議論する.
物体内の点 が物体の変形によって点
に移動したとする.
(このとき点 と点 は一対一対応しており,
この微小変位は のように の関数になっている.)
近い2点 , の距離の変化が物体の変形に対応するので,
\begin{align}
dl^2 &= (x_1+dx_1-x_1)^2+(x_2+dx_2-x_2)^2+(x_3+dx_3-x_3)^2 \\
&= dx_1^2+dx_2^2+dx_3^2, \\[3pt]
dl'^2 &= [(x_1+dx_1+u_1(x_1+dx_1,x_2+dx_2,x_3+dx_3)) \\
&\hspace{15em} -(x_1+u_1(x_1,x_2,x_3))]^2 \\
&\, + [(x_2+dx_2+u_2(x_1+dx_1,x_2+dx_2,x_3+dx_3)) \\
&\hspace{15em} -(x_2+u_2(x_1,x_2,x_3))]^2 \\
&\, + [(x_3+dx_3+u_3(x_1+dx_1,x_2+dx_2,x_3+dx_3)) \\
&\hspace{15em} -(x_3+u_3(x_1,x_2,x_3))]^2 \\
&\approx \left(dx_1 +\frac{\partial u_1}{\partial x_1} dx_1
+\frac{\partial u_1}{\partial x_2} dx_2 +\frac{\partial u_1}{\partial x_3} dx_3 \right)^2 \\
&\quad + \left(dx_2 +\frac{\partial u_2}{\partial x_1} dx_1
+\frac{\partial u_2}{\partial x_2} dx_2 +\frac{\partial u_2}{\partial x_3} dx_3 \right)^2 \\
&\quad + \left(dx_3 +\frac{\partial u_3}{\partial x_1} dx_1
+\frac{\partial u_3}{\partial x_2} dx_2 +\frac{\partial u_3}{\partial x_3} dx_3 \right)^2
\end{align}
の差を考えればよい.
ただし上の式変形において線形近似
\begin{align}
f(x+dx) \approx f(x)+\left.\frac{df}{dx}\right|_x dx
\end{align}
を用いた.
以下 と置く.
変位 は微小であるとして の2乗の項を落とせば, 上式は
\begin{align}
dl'^2 &\approx dx_1^2 +2u_{11} dx_1^2 +2u_{12} dx_1dx_2 +2u_{13} dx_1dx_3 \\
&\quad + dx_2^2 +2u_{21} dx_2dx_1 +2u_{22} dx_2^2 +2u_{23} dx_2dx_3 \\
&\quad + dx_3^2 +2u_{31} dx_3dx_1 +2u_{32} dx_3dx_2 +2u_{33} dx_3^2 \\
&= dl^2 +2 \sum_{i\,=\,j}u_{ij} dx_idx_j \\
&\quad +2 \sum_{i\,\lt\,j}\frac{1}{2}(u_{ij}+u_{ji}) dx_idx_j
+2 \sum_{i\,\gt\,j}\frac{1}{2}(u_{ij}+u_{ji}) dx_idx_j \\
&= dl^2 +2 \sum_{i,j} \varepsilon_{ij}dx_idx_j
\end{align}
となる.
ここで導入した
\begin{align}
\varepsilon_{ij} = \frac{1}{2}(u_{ij}+u_{ji}) \tag{1}
\end{align}
がひずみである.
これは変位 を座標で微分したものなので無次元量であり
(すなわち単位長さあたりの変位を表す), 物体が変形しないときには値が0になる, 対称である
()などの性質を持つ.
3次元物体にかかる力
次に左辺の を3次元物体に対してどう定義するかを議論する.
大きさのある物体にかかる力は, 1次元のばねにかかる力のように単純ではない.
例えば直方体の同じ面に力を加えるといっても, 次のように2通りの力の加え方があるからである:
面に垂直に力を加える,
面に水平に力を加える.
は垂直応力, はせん断応力と区別される.
図1, 図2にこれら2種類の力と, それによる物体の変形を簡単に示した.
これらの応力を数式で表現するために, 3次元空間内の微小な直方体について考えることにする.
直方体の3平面にそれぞれ
, ,
の単位面積当たりの力(応力)を及ぼす.
すると直方体にかかる応力は, ( の 成分)
など9つの成分で書かれることになる.
しかし, この直方体を物体を分割したものの1つと考えれば,
この直方体は他の直方体と隣り合っており, それゆえ回転することが出来ない.
よってこの直方体の力のモーメントは0で, が必要となる.
すなわち微小な直方体にかかる応力は, 結局6成分
で表される.
図1 垂直応力とそれによる変形 | 図2 せん断応力とそれによる変形 |
フックの法則(ひずみと応力の関係式)の導出
最後にひずみ と応力 の間の比例定数を導入すれば,
それが求めたいHookeの法則となる.
式にして表せば, 6つの成分を持つ応力と6つの成分を持つひずみを結ぶ,
の係数 を求めればよい(この係数は弾性係数テンソル
(Wikipedia: 弾性率)
と呼ばれる).
この係数は座標の取り方によらないので, Kroneckerのdelta
\begin{align}
\delta_{ij} =
\left\{ \begin{matrix}
1 & (i=j) \\
0 & (i\ne j)
\end{matrix} \right.
\end{align}
を用いて
\begin{align}
c_{ijkl} = k_1 \delta_{ij}\delta_{kl} + k_2 \delta_{ik}\delta_{jl} + k_3 \delta_{il}\delta_{jk} \tag{4}
\end{align}
と表されるべきである.
これに と の対称性を用いると,
( などから) となる.
これを 式に再代入して,
が得られる.
これが3次元弾性体におけるHookeの法則である.
最後にこの比例定数 , に少しだけ触れておくと,
これらは材料力学ではLamé定数
(Wikipedia: ラメ定数)
と呼ばれており, , で表される.
また 式を見ると, 垂直応力 による2種類の変形
および , はそれぞれYoung率およびPoisson比
(Wikipedia: ヤング率,
ポアソン比)
と呼ばれる材料固有の定数と結びついている.
せん断応力 による変形 も, 剛性率
(Wikipedia: 剛性率)
と呼ばれる材料固有の定数と結びついている.
これらの定数の間の関係式は 式から導くことが出来るので, 詳しくは割愛する.
参考文献
[1] Theory of Elasticity Second edition, Landau, L. & Lifshitz, E., Pergamon Press, p.1-12 (1970).
[2] http://amonphys.web.fc2.com/amoncm.pdf, 連続体力学, あもんノート, p.3-6.