「光学(optics)」とは, 光にはどういう性質があるか?,
また光と物質はどのような相互作用をするか?を取り扱う学問である.
光学には電磁気学や量子力学と密接な関連があるが, ぼく自身そんな難しいことはわからない.
まあこの記事の続きを書くことをモチベーションに追々勉強したいということで,
今回はFresnelの式
(Wikipedia:フレネルの式)
について…
と思っていたのだが, かなり長くなってしまったので途中のSnellの法則まで.
追記 2017/6/28に大幅に修正した(注参照).
偏光の表現
遮るものが何もない空間では, 光は直進する.
電磁気学によれば, 光は進行方向と垂直に振動する電場と磁場である(図1).
その振動の仕方は1つではなく,
偏光(Wikipedia:偏光)
と呼ばれる性質を持つ.
たとえば, 電場が床に対して垂直に振動しているとか, 水平に振動しているとか, またはその重ねあわせであるとかである.
上にリンクとして載せたWikipediaによれば, 偏光状態には直線偏光, 円偏光, 楕円偏光の3種類がある.
しかし光の偏光状態は全て, 直交する2つの直線偏光(TM波とTE波)の重ね合わせで表すことが出来る.
これは, 光が異なる媒質に入射する際,「(その入射面に対して)電場の振動方向が水平か垂直か」
で偏光を区別したものである(参考:
偏光の用語).
図1 光と電場と磁場 | 図2 式で表される様々な偏光状態 |
先に波動論の復習をしておくと, 波は速度 , 周波数 , 角振動数 , 波長 , 波数
など複数のパラメタで記述されるが, これらのパラメタ間には
\begin{align}
v=\nu\lambda, \quad \omega=2\pi\nu, \quad k=2\pi/\lambda=\omega/v
\end{align}
などの関係が成り立つ.
いま, 周波数 の光が 軸方向に進んでいるとすると, その電場成分は
\begin{align}
\boldsymbol{E} &=
\begin{pmatrix}
0 \\ E_\mathrm{TM} \\ 0
\end{pmatrix}
\cos\frac{2\pi(x-vt)}{\lambda}
+
\begin{pmatrix}
0 \\ 0 \\ E_\mathrm{TE}
\end{pmatrix}
\cos\left(\frac{2\pi(x-vt)}{\lambda}+\delta\right) \\
&=
\begin{pmatrix}
0 \\ E_\mathrm{TM} \\ 0
\end{pmatrix}
\cos(kx-2\pi\nu t)
+
\begin{pmatrix}
0 \\ 0 \\ E_\mathrm{TE}
\end{pmatrix}
\cos(kx-2\pi\nu t+\delta) \tag{1}
\end{align}
と書ける(ただし はTM波とTE波の位相差を表す).
式を (振幅が等しい)として具体的にプロットしたものが図2である.
とすれば直線偏光が, とすれば円偏光が, その他の場合は楕円偏光が再現される.
今後のために, Eulerの公式
(Wikiledia: オイラーの公式, )
を用いて, 式を指数関数(の複素数乗)で表現すると,
\begin{align}
\boldsymbol{E}=
\begin{pmatrix}
0 \\ E_\mathrm{TM} \\ 0
\end{pmatrix}
e^{i(kx-2\pi\nu t)}
+
\begin{pmatrix}
0 \\ 0 \\ E_\mathrm{TE}
\end{pmatrix}
e^{i\delta} e^{i(kx-2\pi\nu t)}
\end{align}
である.
より一般には, 波数ベクトル を用いて波の進行方向を指定して,
\begin{align}
\boldsymbol{E}=
\boldsymbol{E}_\mathrm{TM}
e^{i(\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x}-2\pi\nu t)}
+
\boldsymbol{E}_\mathrm{TE}
e^{i\delta} e^{i(\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x}-2\pi\nu t)} \tag{1$^\prime$}
\end{align}
と書ける.
ただし , ,
はたがいに直交する, 大きさ , , の3次元ベクトルである.
なお, 式の虚数部分は観測にはかからない.
電場や磁場などの我々が測定できる物理量は, すべてこの指数関数の実数部分である[1](注).
反射角と屈折角の導出
光は異なる媒質へ入射すると, 屈折しながら透過したりまたは反射されたりする.
興味深いことに, 物質の反射率および透過率は, 入射波がTM波かTE波かといった偏光状態によって変化する.
これを説明する準備として, 以下で光の反射角と屈折角を求める.
なお, この節では線形現象のみ取り扱う.
すなわち, 電束密度 および磁束密度 と,
電場 および磁場 との間には,
\begin{align}
\boldsymbol{D} =\epsilon \boldsymbol{E}, \qquad \boldsymbol{B}=\mu \boldsymbol{H} \tag{2}
\end{align}
なる関係が常に成立しているとする.
ここで , はそれぞれ物質中での誘電率(permittivity)と透磁率(permeability)である
(真空の誘電率と透磁率は , で表す).
これらを用いると, 物質の屈折率 は
\begin{align}
c=nv \Leftrightarrow~n=\sqrt{\frac{\epsilon\mu}{\epsilon_0\mu_0}}=c\sqrt{\epsilon\mu}
\end{align}
と表される.
ただし光速 は と書けることを用いた.
さて, Maxwell方程式によると,
光が媒質1(屈折率 )から媒質2(屈折率 )に入射した場合の境界条件は,
\begin{align}
\begin{matrix}
\boldsymbol{D}_{1\mathrm{T}} = \boldsymbol{D}_{2\mathrm{T}}, \\
\boldsymbol{B}_{1\mathrm{T}} = \boldsymbol{B}_{2\mathrm{T}}, \\
\boldsymbol{E}_{1\mathrm{L}} = \boldsymbol{E}_{2\mathrm{L}}, \\
\boldsymbol{H}_{1\mathrm{L}} = \boldsymbol{H}_{2\mathrm{L}}\,
\end{matrix} \tag{3}
\end{align}
である.
上式において は境界面に垂直な成分を表し, は境界面に平行な成分を表すとする
( である).
これらの式は, 境界の両側を含む極めて薄い閉曲面または閉曲線において,
Maxwell方程式をそれぞれ適用すると導出される.
例えば1つ目の式 は,
Gaussの法則より従う(境界の両側を含む極めて薄い閉曲面内の電荷は0なので)[2].
図3 媒質1()から媒質2()へのTE波の入射
青が入射光, 赤が反射光, 緑が透過光を表す. |
今, 図3のように平面 に媒質の境界面が存在し, 光線は 負方向から直線
()に沿って 正方向に入射するとする.
すると媒質1中での入射光の電場は, 式より
\begin{align}
\boldsymbol{E}_1 &=
\boldsymbol{E}_{1\mathrm{TM}}
e^{i\boldsymbol{k}_1\cdot\boldsymbol{x}-2\pi i\nu_1 t}
+
\boldsymbol{E}_{1\mathrm{TE}}
e^{i\delta_1} e^{i\boldsymbol{k}_1\cdot\boldsymbol{x}-2\pi i\nu_1 t} \\
&=
\begin{pmatrix}
-E_{1\mathrm{TM}}\sin\alpha \\ E_{1\mathrm{TM}}\cos\alpha \\ 0
\end{pmatrix}
e^{ik_1(x\cos\alpha+y\sin\alpha)-2\pi i\nu_1 t} \\
&\qquad\qquad +
\begin{pmatrix}
0 \\ 0 \\ E_{1\mathrm{TE}}
\end{pmatrix}
e^{i\delta_1} e^{ik_1(x\cos\alpha+y\sin\alpha)-2\pi i\nu_1 t} \\
&=
\begin{pmatrix}
-E_{1\mathrm{TM}}\sin\alpha \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
e^{ik_1(x\cos\alpha+y\sin\alpha)-2\pi i\nu_1 t} \\
&\qquad\qquad +
\begin{pmatrix}
0 \\ E_{1\mathrm{TM}}\cos\alpha \\ E_{1\mathrm{TE}}e^{i\delta}
\end{pmatrix}
e^{ik_1(x\cos\alpha+y\sin\alpha)-2\pi i\nu_1 t} \tag{4-1}
\end{align}
と書ける.
は波数ベクトル,
は振動数, は位相差である.
ここで, 式の第1項が境界面 に垂直な で,
第2項が境界面に平行な である.
また, 媒質1中での反射波は反射角を ,
振動数を として
\begin{align}
\boldsymbol{E}_1' &=
\begin{pmatrix}
-E_{1\mathrm{TM}}' \sin\beta \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
e^{-ik_1'(x\cos\beta+y\sin\beta)-2\pi i\nu_1' t} \\
&\qquad\qquad+
\begin{pmatrix}
0 \\ E_{1\mathrm{TM}}' \cos\beta \\ E_{1\mathrm{TE}}' e^{i\delta}
\end{pmatrix}
e^{-ik_1'(x\cos\beta+y\sin\beta)-2\pi i\nu_1' t} \tag{4-2}
\end{align}
と表される.
ただし反射波は 負方向に進むので, 波数ベクトルは
とした.
同様に媒質2中での屈折波は, 波数ベクトルを ,
振動数を として
\begin{align}
\boldsymbol{E}_2 &=
\begin{pmatrix}
-\frac{k_{2y}}{k_2}E_{2\mathrm{TM}} \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
e^{i(k_{2x}x+k_{2y}y+k_{2z}z)-2\pi i\nu_2 t} \\
&\qquad\qquad+
\begin{pmatrix}
0 \\ \frac{k_{2x}}{k_2}E_{2\mathrm{TM}} \\ E_{2\mathrm{TE}} e^{i\delta}
\end{pmatrix}
e^{i(k_{2x}x+k_{2y}y+k_{2z}z)-2\pi i\nu_2 t}, \tag{4-3}
\end{align}
もしくは屈折角が明確に定義できるならば, 上式において波数ベクトルは となる,
すなわち
\begin{align}
\frac{k_{2x}}{k_2}=\cos\gamma, \quad \frac{k_{2y}}{k_2}=\sin\gamma \tag{5}
\end{align}
が成り立つことになる.
式においても, 第1項が境界面 に垂直な で,
第2項が境界面に平行な である.
式の電場および電束密度に関する境界条件に
式 と 式を代入して, とすると,
\begin{align}
\epsilon_1 E_{1\mathrm{TM}}\sin\alpha\,e^{ik_1y\sin\alpha-2\pi i\nu_1 t}
+& \epsilon_1 E_{1\mathrm{TM}}'\sin\beta\,e^{-ik_1'y\sin\beta-2\pi i\nu_1' t} \\[2pt]
&= \epsilon_2 \frac{k_{2y}}{k_2}E_{2\mathrm{TM}} e^{i(k_{2y}y+k_{2z}z)-2\pi i\nu_2 t}, \\[2pt]
E_{1\mathrm{TM}}\cos\alpha\,e^{ik_1y\sin\alpha-2\pi i\nu_1 t}
+& E_{1\mathrm{TM}}'\cos\beta\,e^{-ik_1'y\sin\beta-2\pi i\nu_1' t} \\[2pt]
&= \frac{k_{2x}}{k_2}E_{2\mathrm{TM}} e^{i(k_{2y}y+k_{2z}z)-2\pi i\nu_2 t}, \\[2pt]
E_{1\mathrm{TE}} e^{ik_1y\sin\alpha-2\pi i\nu_1 t}
+& E_{1\mathrm{TE}}' e^{-ik_1'y\sin\beta-2\pi i\nu_1' t} \\[3pt]
&= E_{2\mathrm{TE}} e^{i(k_{2y}y+k_{2z}z)-2\pi i\nu_2 t}
\end{align}
が得られる.
これが , (および )に関する恒等式なので,
\begin{align}
\epsilon_1 E_{1\mathrm{TM}}\sin\alpha &+ \epsilon_1 E_{1\mathrm{TM}}'\sin\beta
= \epsilon_2 \frac{k_{2y}}{k_2}E_{2\mathrm{TM}}, \\
E_{1\mathrm{TM}}\cos\alpha &+ E_{1\mathrm{TM}}'\cos\beta = \frac{k_{2x}}{k_2}E_{2\mathrm{TM}}, \\
E_{1\mathrm{TE}} &+ E_{1\mathrm{TE}}' = E_{2\mathrm{TE}}, \tag{6} \\
ik_1\sin\alpha &= -ik_1'\sin\beta = ik_{2y}, \,\quad\, k_{2z}=0, \\
2\pi i\nu_1 &= 2\pi i\nu_1' = 2\pi i\nu_2.
\end{align}
最後の式よりまず「反射や屈折によって振動数は変化しない.」
また より, 式から2つの基本的な法則が得られる:
反射角は入射角に等しい
\begin{align}
\sin\beta=-\sin\alpha, \tag{7-1}
\end{align}
Snellの法則(Wikipedia: スネルの法則)
\begin{align}
k_1\sin\alpha=k_{2y}~\Rightarrow~n_2\sin\gamma=n_1\sin\alpha. \tag{7-2}
\end{align}
ただしSnellの法則は透過光の屈折角が定義できる, すなわち のときのみ考えるとする.
や などの反射波, 屈折波の振幅を得るには 式は不十分である.
そのため, 式の磁場および磁束密度に関する境界条件を用いることが必要になる.
注について
のかわりに を用いる理由は,
後者のほうが(波に関して言えば)より本質的な量だからだとぼくは思う.
ぼくもこの記事を読み直している途中で気が付いたのだが, を用いて計算した場合には,
光が全反射した場合などの電場や磁場を求める際に怪しげな操作が必要となる.
それゆえ, はじめはsinusoidalな式で書いていた本稿であったが, exponentialな式に書き直した.
その際[3]を参考にした.
参考文献
[1] http://web.tuat.ac.jp/~katsuaki/el/EL2008/slide_hikari02.pdf,
基礎から学ぶ光物性 第2回 光が物質中を伝わるとき, 佐藤 勝昭.
[2] http://www.rs.tus.ac.jp/nikuni/elemag/elemagnotes14.pdf, 第4章 変動する電磁場, 二国 徹郎.
[3] http://eman-physics.net/electromag/fresnel.html, フレネルの式, EMANの物理学.