前回(■)は1次元の熱平衡について, 基礎方程式の導出から行った.
これは全て今回のための準備で, 今回は2次元の熱平衡,
つまり金属板を加熱したときにどのような温度分布に行き着くかを求めたい.
2次元問題
2次元の場合においても 式は同様に成り立ち, 金属板の厚さを とすれば
\begin{align}
-\lambda d\left(\frac{\partial^2\phi(x,y)}{\partial x^2}
+\frac{\partial^2\phi(x,y)}{\partial y^2}\right)+2h(\phi(x,y)-\phi(\infty))=0 \tag{5}
\end{align}
が温度分布を求める方程式となる.
ただし前回からの変更として, 式では温度 を に書き換え,
微分 を に書き換えた.
特に, 式の第1項
\begin{align}
\left[\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}\right]\phi(x,y)
\end{align}
は2次元Laplacian(Wikipedia: ラプラス作用素)と呼ばれ, 様々な物理現象に現れる.
図1 金属板の加熱 |
さて, ここで図1のように, 半径 の中空円筒によって厚さ の金属板を加熱する場合を考えたい.
このような回転対象性のある問題では, 直交座標系を離れて, 極座標系を用いると便利である.
極座標における2次元Laplacianは \begin{align} \left[\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}\left(r\frac{\partial}{\partial r}\right)+\frac{1}{r^2}\frac{\partial^2}{\partial\theta^2}\right] \end{align} と書けるので(証明略), 1次元問題の場合と同様に とすれば, 式は \begin{align} \left[\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}\left(r\frac{\partial}{\partial r}\right) +\frac{1}{r^2}\frac{\partial^2}{\partial\theta^2}\right]f(r,\theta)-\alpha^2 f(r,\theta)=0 \quad(\alpha:=\sqrt{2h/\lambda d})\tag{5$^\prime$} \end{align} と書き直される.
このような多変数関数の微分を含む方程式は偏微分方程式と呼ばれ, 一般解を求めるのは困難であることが多い.
しかし今の問題設定では, 加熱に 依存性がないので となり, \begin{align} \frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}\left(r\frac{\partial}{\partial r}\right)f(r) -\alpha^2 f(r)=0 &\Leftrightarrow~\frac{rf^{\prime\prime}(r)+f'(r)}{r}=\alpha^2 f(r) \\ &\Leftrightarrow~rf^{\prime\prime}(r)+f'(r)-\alpha^2 rf(r)=0 \tag{6} \end{align} となる.
これは変形Besselの微分方程式と呼ばれる微分方程式で, 解は変形Bessel関数(Wikipedia: ベッセル関数) という特殊関数で与えられるが, 以下でそれを知らずに解くことにする.
変形ベッセル関数
今求めたい解は, での温度分布関数 と,
での温度分布関数 である.
これらには次のような性質が求められる:
- は, を満たし, の増加に従って増加する (これは に負の領域があるとすると理解しやすいと思われる).
- は, の増加に従って減少し, で となる.
まず, を のべき乗で展開した式
\begin{align}
f_1(r)=a_0+a_1r+\sum_{n=2}^{\infty}a_n r^n \tag{7}
\end{align}
は のとき1つ目の性質を満たすので, 順次 を求めていけば も求められる.
式を 式に代入して,
\begin{align}
&r\sum_{n=2}^{\infty}a_n n(n-1) r^{n-2} +a_1+ \sum_{n=2}^{\infty}a_n n r^{n-1}
-\alpha^2 r (a_0+a_1 r+\sum_{n=2}^{\infty}a_n r^n) \\
=\,&a_1+\sum_{n=2}^{\infty}a_n (n(n-1)+ n) r^{n-1}
-\alpha^2 \sum_{n=0}^{\infty}a_n r^{n+1} \\
=\,&a_1+\sum_{n=2}^{\infty}\left(n^2a_n-\alpha^2a_{n-2}\right)r^{n-1}=0.
\end{align}
これが に関する恒等式なので, ,
\begin{align}
(n+2)^2a_{n+2}-\alpha^2a_n=0 \quad\mathrm{for~all}~n\in\mathbb{N}_0,
\end{align}
すなわち
\begin{align}
a_{2k-1}&=0, \quad a_{2k}=\frac{a_0}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha}{2}\right)^{2k}, \\
f_1(r)&=a_0\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k}. \tag{8}
\end{align}
次に, についても同様に展開したいが,
のべき乗の和で で収束する関数をつくるのは難しそうである.
そこで少し唐突ではあるが,
\begin{align}
f_2(r)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{b_k}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k}-g(r)f_1(r) \tag{9}
\end{align}
と, 無限遠で発散する関数 をあらかじめ引いておくことにする.
\begin{align}
f_2'(r)&=\sum_{k=1}^\infty
\frac{\alpha b_k k}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1}-g'f_1-gf_1', \\
rf_2^{\prime\prime}(r)&=\sum_{k=1}^\infty \frac{\alpha b_k k(2k-1)}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1}
-rg^{\prime\prime}f_1-2rg'f_1'-rgf_1^{\prime\prime}
\end{align}
より, 式を 式に代入すると,
\begin{align}
&\sum_{k=1}^\infty \frac{2\alpha b_k k^2}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1}
-\sum_{k=0}^\infty \frac{\alpha^2 b_k r}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k} \\
&-rg^{\prime\prime}f_1-2rg'f_1'-rgf_1^{\prime\prime}-g'f_1-gf_1'+\alpha^2rgf_1 \\
=\,&\sum_{k=1}^\infty \frac{2\alpha b_k}{((k{}-1)!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1}
-\sum_{k=0}^\infty \frac{2\alpha b_k}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k+1} \\
&-rg^{\prime\prime}f_1-2rg'f_1'-g'f_1
-\left[rf_1^{\prime\prime}+f_1'-\alpha^2rf_1\right]g \\
=\,&\sum_{k=1}^\infty \frac{2\alpha(b_k-b_{k{}-1})}{((k{}-1)!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1}
-\left[rg^{\prime\prime}+g'\right]f_1-2rg'f_1' =0.
\end{align}
最後の式変形には 式を用いた.
いま, にはまだ条件が課されておらず, それゆえ はある程度自由に選ぶことができる.
そこで, 上式の第2項を0にするために, 正の定数 , を積分定数として
\begin{align}
rg^{\prime\prime}+g'=0 &\Leftrightarrow \frac{g^{\prime\prime}}{g'}=-\frac{1}{r}, \quad g'\ne0. \\
&\Leftrightarrow \log{g'}=-\log{r}+\log{A} =\log\frac{A}{r}. \\
&\Leftrightarrow g'(r)=\frac{A}{r}, \quad g(r)=A(\log{r}+\log{B})=A\log{Br}.
\end{align}
再代入して
\begin{align}
&\sum_{k=1}^\infty \frac{2\alpha(b_k-b_{k{}-1})}{((k{}-1)!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1} -2Af_1' \\
=\,&\sum_{k=1}^\infty \frac{2\alpha(b_k-b_{k{}-1})}{((k{}-1)!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1}
-2A \sum_{k=1}^\infty \frac{\alpha k}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1} \\
=\,&\sum_{k=1}^\infty \frac{2\alpha k}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k-1}
\left(k(b_k-b_{k{}-1})-A\right) =0.
\end{align}
これが に関する恒等式なので,
\begin{align}
k(b_k-b_{k{}-1})-A =0 \quad\mathrm{for~all}~k\in\mathbb{N}.
\end{align}
すなわち
\begin{align}
b_k=b_0+\sum_{i=1}^{k}\frac{A}{i},\quad f_2(r)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{b_k}{(k!)^2}
\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k}-Af_1(r)\log{Br}.
\end{align}
最後に, これが無限遠で収束するという条件から や を求める.
として
\begin{align}
f_2(r) & =\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{(k!)^2}
\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k}\left(b_0+\sum_{i=1}^{k}\frac{1}{i}\right)-f_1(r)\log{Br} \\
&= \sum_{k=0}^{\infty} \frac{1}{(k!)^2} \left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k}
\left(b_0+\sum_{i=1}^{k}\frac{1}{i}\right)
- \sum_{k=0}^{\infty} \frac{1}{(k!)^2} \left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k}\log{Br} \\
&= \sum_{k=0}^{\infty} \frac{1}{(k!)^2} \left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k}
\left(b_0+\sum_{i=1}^{k}\frac{1}{i}-\log{Br}\right).
\end{align}
ここで
\begin{align}
\lim_{n\to\infty}\left(-\gamma+\sum_{i=1}^{n}\frac{1}{i}-\log{n}\right)=0,
\end{align}
はEulerの定数(Wikipedia: オイラーの定数)となる類推から,
\begin{align}
b_0=-\gamma, \quad B=\frac{\alpha}{2}
\end{align}
とすれば は無限遠で収束する.
すなわち, を新しく と書いて,
\begin{align}
f_2(r)=b_0\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{(k!)^2}\left(\frac{\alpha r}{2}\right)^{2k}
\left(-\gamma+\sum_{i=1}^{k}\frac{1}{i}-\log{\frac{\alpha r}{2}}\right) \tag{10}
\end{align}
と求まった.
2次元問題
再び2次元問題に戻ると, 温度分布は上で求めた , を用いて次のように表されると分かる.
\begin{align}
\phi(r,\theta)=
\left\{\begin{matrix}
\phi(\infty)+f_1(r) & (0 \leq r \leq R) \\
\phi(\infty)+f_2(r) & (r \geq R)
\end{matrix} \right. .
\end{align}
図2に前回と同様, 厚さ の銅板を半径 ,
の中空円筒で 度に加熱した場合のそれぞれの温度分布を載せておく.
各種定数は , ,
とした.
図2 金属板の温度分布() | 図3 金属板の温度分布() |
参考文献
[1] http://www.sci.hyogo-u.ac.jp/maths/master/h11/kunimasa.pdf, 特殊関数とその応用について, 國政弘行.