今日も懲りずに3次元空間内の電位を求めていきたい.
問題設定
図1 中空円筒電極の形状 |
図1のように, 高さ , 半径 の, 上下に穴の開いた中空円筒を空間内に置く.
この円筒は厚さのない金属でできていて, 表面は一様に の電位が与えられているとする.
このときの空間電位はどうなっているのであろうか?
前回(■)に倣えば,
この問題を解くためには次のような方程式を解く必要がある:
\begin{align}
\left[\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}
+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right]\phi=0, \qquad
\phi(r=R, -l\leq z \leq l)=V. \tag{1}
\end{align}
この方程式も変数分離によって解くことは出来ない(と思う).
よって前回同様, グリーン関数を用いて電位を求める.
グリーン関数による解答
金属円筒上の点は, 円筒座標系を用いれば ()と表される.
円筒上での電荷密度を とすれば, 対称性より は高さのみの関数
である.
次に, 点 ()付近の微小電荷が観測点
( は偏角 には依存しないので, 第2成分は0としてよい)
に及ぼす電位の大きさ は,
\begin{align}
G(R,\theta,h,r,0,z)
&= \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{\rho}{|(R,\theta,h)-(r,0,z)|} \\
&= \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{\rho(h)}{\sqrt{(R\cos\theta-r)^2+(R\sin\theta)^2+(h-z)^2}} \\
&= \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{\rho(h)}{\sqrt{r^2+R^2+(h-z)^2-2rR\cos\theta}} \tag{2}
\end{align}
である.
よって, 観測点 の電位は, 式を金属円筒上全体で積分した,
\begin{align}
\phi(r,0,z) &= \phi(r,z) = \int_{-l}^{l}dh \int_{-\pi}^{\pi}Rd\theta G(R,\theta,h,r,0,z) \\
&= \frac{1}{4\pi\epsilon_0} \int_{-l}^{l}dh \int_{-\pi}^{\pi}Rd\theta
\frac{\rho(h)}{\sqrt{r^2+R^2+(h-z)^2-2rR\cos\theta}} \tag{3}
\end{align}
である.
同じ符号の電荷同士は反発しあうので, は定数ではない(わずかだが に伴って増加する).
よって空間電位の具体的な形状は, 式が 式の境界条件を満たすように
をシミュレートする必要がある.
図2に, , ,
としたシミュレーション結果を添付する.
なお, この計算にもソフトウェアSIMIONを用いた.
図2 中空円筒電極の電位シミュレーション |
前回同様, が定数であるとして計算を続ける.
また, 観測点は に限るとする.
このとき, 式は
\begin{align}
&\phi(r,z) \approx \frac{\rho}{4\pi\epsilon_0} \int_{-l}^{l}dh \int_{-\pi}^{\pi}Rd\theta
\frac{1}{\sqrt{r^2+R^2+(h-z)^2}} \left[1-\frac{2rR\cos\theta}{r^2+R^2+(h-z)^2}\right]^{-1/2} \\
&\approx \frac{\rho R}{4\pi\epsilon_0} \int_{-l}^{l}dh \int_{-\pi}^{\pi}d\theta \frac{1}{\sqrt{r^2+R^2+(h-z)^2}}
\left[1+\frac{rR\cos\theta}{r^2+R^2+(h-z)^2}+\frac{3}{2}\left(\frac{rR\cos\theta}{r^2+R^2+(h-z)^2}\right)^2\right]
\end{align}
である.
ここで, のときに成り立つ近似式(前回の 式)
\begin{align}
(1+x)^a \approx 1+ax+\frac{a(a-1)}{2}x^2
\end{align}
のはじめの3項を用いた.
あとはこれを積分する.
\begin{align}
\int_{-\pi}^{\pi}d\theta = 2\pi, \quad
\int_{-\pi}^{\pi}d\theta \cos\theta =0, \quad
\int_{-\pi}^{\pi}d\theta \cos^2\theta =\pi
\end{align}
より,
\begin{align}
&\int_{-\pi}^{\pi}d\theta
\left[1+\frac{rR\cos\theta}{r^2+R^2+(h-z)^2}+\frac{3}{2}\left(\frac{rR\cos\theta}{r^2+R^2+(h-z)^2}\right)^2\right]\\
&= 2\pi+0+\frac{3\pi}{2}\left(\frac{rR}{r^2+R^2+(h-z)^2}\right)^2.
\end{align}
よって
\begin{align}
&\phi(r,z) \approx \frac{\rho R}{4\pi\epsilon_0} \int_{-l}^{l}dh \frac{1}{\sqrt{r^2+R^2+(h-z)^2}}
\left[ 2\pi+\frac{3\pi}{2}\left(\frac{rR}{r^2+R^2+(h-z)^2}\right)^2 \right] \\
&= \frac{\rho R}{\epsilon_0} \int_{-l}^{l}dh
\left[ \frac{1}{2}\frac{1}{(r^2+R^2+(h-z)^2)^{1/2}}+\frac{3}{8}\frac{r^2R^2}{(r^2+R^2+(h-z)^2)^{5/2}} \right] \\
&= \frac{\rho R}{\epsilon_0} \int_{\alpha_-}^{\alpha_+} \sqrt{r^2+R^2}\frac{d\theta}{\cos^2\theta}
\left[ \frac{1}{2\sqrt{r^2+R^2}}\cos\theta+\frac{3r^2R^2}{8\sqrt{r^2+R^2}^5}\cos^5\theta \right] \\
&= \frac{\rho R}{\epsilon_0} \int_{\alpha_-}^{\alpha_+} d\theta
\left[ \frac{1}{2}\frac{1}{\cos\theta}+\frac{3r^2R^2}{8(r^2+R^2)^2}\cos^3\theta \right] \\
&= \frac{\rho R}{\epsilon_0} \left[ \frac{1}{2}\ln\sqrt{\frac{1+\sin\theta}{1-\sin\theta}}
+\frac{3r^2R^2}{8(r^2+R^2)^2}\left(\sin\theta-\frac{1}{3}\sin^3\theta\right) \right]_{\alpha_-}^{\alpha_+} \\
&= \frac{\rho R}{\epsilon_0} \left[ \frac{1}{2}\ln\left(\sqrt{1+x^2}+x\right)
+\frac{3r^2R^2}{8(r^2+R^2)^2}\left(\frac{x}{\sqrt{1+x^2}}
-\frac{1}{3}\left(\frac{x}{\sqrt{1+x^2}}\right)^3\right) \right]_{t_-}^{t_+}. \tag{4}
\end{align}
ただし2行目から3行目は
\begin{align}
&\frac{h-z}{\sqrt{r^2+R^2}}=\tan\theta, \quad dh=\sqrt{r^2+R^2}\frac{d\theta}{\cos^2\theta}, \\
&\tan\alpha_\pm=\frac{\pm l-z}{\sqrt{r^2+R^2}}
\end{align}
と置換し, 4行目から5行目は
\begin{align}
\int\frac{d\theta}{\cos\theta} &= \ln\sqrt{\frac{1+\sin\theta}{1-\sin\theta}}, \\
\int d\theta \cos^3\theta &= \sin\theta-\frac{1}{3}\sin^3\theta
\end{align}
(積分定数は省略), 5行目から6行目は
\begin{align}
&\tan\alpha=A \Leftrightarrow \sin\alpha=\frac{A}{\sqrt{1+A^2}}, \\
&t_\pm=\tan\alpha_\pm=\frac{\pm l-z}{\sqrt{r^2+R^2}}
\end{align}
を用いた.
最後に を求めたいが, これは での境界条件 式によって定まるものなので,
今までの計算からは求めることができない.
よって, 距離の次元をもつ定数 を用いて
\begin{align}
\rho=\epsilon\frac{V}{s}
\end{align}
とし, これを 式に用いて,
\begin{align}
&\phi(r,z) \approx V\frac{R}{s} \left[ \frac{1}{2}\ln\left(\sqrt{1+x^2}+x\right)
+\frac{3r^2R^2}{8(r^2+R^2)^2}\left(\frac{x}{\sqrt{1+x^2}}
-\frac{1}{3}\left(\frac{x}{\sqrt{1+x^2}}\right)^3\right) \right]_{t_-}^{t_+} \\
&= V\frac{R}{s} \left[ \frac{1}{2}\ln\frac{\sqrt{r^2+R^2+(z-l)^2}-(z-l)}{\sqrt{r^2+R^2+(z+l)^2}-(z+l)} \right.\\
\Biggl.&+ \frac{3r^2R^2}{8(r^2+R^2)^2}\left(
\frac{(z+l)\left(3(r^2+R^2)+2(z+l)^2\right)}{(r^2+R^2+(z+l)^2)^{3/2}}
-\frac{(z-l)\left(3(r^2+R^2)+2(z-l)^2\right)}{(r^2+R^2+(z-l)^2)^{3/2}}\right) \Biggr] \tag{5}
\end{align}
としておく.
結果の検証
図3に上で得られた結果をプロットした.
条件は図2と同じ , , としたが,
この結果は でしか正しくないことに注意する必要がある.
特に, のときの の 依存は図4のようになる.
図3 電位の計算結果 | 図4 での と |