ガウスのレンズ公式 証明

こんにちは. unvです.

みなさん, レンズ使ってますか?
ぼくは毎日使ってます. 多分みなさんもほぼ毎日使ってるんじゃないでしょうか?
カメラ用レンズじゃなくても, メガネもレンズだし, スマホにもついてますね.
顕微鏡なんかはレンズの集合体です.
ところでレンズを使う上で死ぬほど重要な式の一つに, 「ガウスのレンズ公式 (Gaussian lens formula)」というものがあります.
たいそうな名前がついていますが, なんてことはないです:
モノとレンズの間の距離 a, レンズとレンズがつくるモノの像の間の距離 b, の間にはレンズの焦点距離f として \begin{align} \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} \tag{A} \end{align} の関係が成り立つという式です (Wikipedia: レンズの公式, 図1も参照).
この式は小学校の理科とかで習いますが, ぼくは今までにこの式をちゃんと証明したことがありませんでした (もちろんwikipediaに載っている相似を使う説明では全然納得できません).
ということで今回はこの式を証明したいと思います.

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図1 ガウスのレンズ公式のセットアップ.
この式から像の倍率なども計算できる.
図2 ガラス球に光を入射させる.
ガラス球の右奥側も全てガラスであるとする.

ガラス球による光の屈折

図1には簡単化して示したが, 実際にはレンズによる光の屈折は2回起こる.
光が空気からレンズ (ガラス) に入射するときと, レンズ (ガラス) から空気に出ていくときである.
まずは簡単のために光の屈折が1度しか起きないような, 図2のようにレンズの最前面より奥側は全てガラスであるようなセットアップを考える.
ガラス球から距離 a だけ離れた点Aがガラス球内につくる像を考える (1). 点Aから角度 \alpha で放たれた光は点Pでガラスに入射し, そこで屈折して点Bに到達するとする.
ガラス球 (半径 R) の中心をCとし, 直線AC上に点Bがあるとすれば, 点Bが光の焦点となる (実際には点Bが光の焦点となる保証は一切ない, すなわち点Aから出て行った光がその出射角 \alpha に依存せず点Bを通る保証はないが, 一定の近似のもとでそうなることは後で示される).
空気の屈折率を n_1, ガラスの屈折率を n_2~(>n_1) として, 光線の角度は図に記してあるように定める.
このような状況で物とレンズ面の距離 a および像とレンズ面の距離 b の間にはどのような関係が成立するかを考える.
(1: ガラス球内で光が収束しない, すなわちガラス球内に光が発散していくときにも, b<0とした同様の式が成立する.)

まず空気とガラスの界面で \begin{align} n_1\sin{\theta_1} = n_2\sin{\theta_2} \tag{1} \end{align} が成り立つ (Snellの法則, 随分昔に で扱った気がする).
次に三角形ACP, CPBなどで \begin{align} \alpha+\phi = \theta_1, \qquad \beta+\theta_2 = \phi, \tag{2} \end{align} また線分ABと点Pの距離 h に対して \begin{align} h = R\sin{\phi} \tag{3} \end{align} が成り立つ.
h\alpha でも書けて, \begin{align} h = (a+R(1-\cos{\phi}))\tan{\alpha} \tag{4} \end{align} であるから, (3), (4)式より\phi\alpha で表される: \begin{align} \tan{\alpha} = \frac{R\sin{\phi}}{a+R(1-\cos{\phi})}. \tag{5} \end{align} \theta_2 も(1), (2)式より \begin{align} \sin{\theta_2} = \frac{n_1}{n_2}\sin{(\alpha+\phi)} \tag{6} \end{align} と書けるので, \alpha で表される. よって像とレンズ面の距離 b は \begin{align} b = R(1-\cos{\phi}) + \frac{h}{\tan{(\phi-\theta_2)}} \tag{7} \end{align} となり, (5), (6), (7)式から (少なくとも数値的には) 計算できることがわかった.

b が明らかに \alpha に依存することは重要である.
これはすなわち球面収差 (球面での屈折は完全な焦点を作らない) の存在を示す.
しかしもし仮に点Aからの光の出射角 \alpha が非常に浅かったらどうだろうか? (これはカメラ用レンズでいうと絞りをかなり絞った状態などに対応する.)
このような状況は近軸近似と呼ばれる.
近軸近似は式を \phi の1次までで展開することに対応する, すなわち \begin{align} \sin{\phi} \approx \phi, \qquad \cos{\phi} \approx 1 \tag{8} \end{align} と近似する. すると(5), (6), (7)式は \begin{align} &\tan{\alpha} \approx \frac{h}{a}, \tag{5'} \\ &\tan{\theta_2} \approx h\frac{n_1}{n_2}\left(\frac{1}{a} + \frac{1}{R}\right), \tag{6'} \\ &b \approx \left(\frac{1}{R} - \frac{n_1}{n_2}\left(\frac{1}{a} + \frac{1}{R}\right)\right)^{-1} = \frac{n_2}{\frac{n_2-n_1}{R} - \frac{n_1}{a}} \tag{7'} \end{align} となる. なお \begin{align} \tan{\theta_1} \approx h\left(\frac{1}{a} + \frac{1}{R}\right) \tag{9} \end{align} である.
(7')式は \alpha に依存しないから, 点Aからの光の出射角 \alpha が非常に浅いならば焦点が存在し, そのとき物とレンズ面の距離 a および像とレンズ面の距離 b の間には関係式 \begin{align} \frac{n_1}{a} + \frac{n_2}{b} = \frac{n_2-n_1}{R} \tag{B} \end{align} が成立する.

(B)式には2つの焦点距離に関する重要な情報が含まれている.
焦点距離焦点距離である.
焦点距離 f_{\mathrm{o}} は \begin{align} f_{\mathrm{o}} = \lim_{b\to\infty} a = \frac{n_2-n_1}{n_1} R \tag{10} \end{align} で定義される, 物側の焦点距離である.
焦点距離 f_{\mathrm{i}} は \begin{align} f_{\mathrm{i}} = \lim_{a\to\infty} b = \frac{n_2-n_1}{n_2} R \tag{11} \end{align} で定義される, 像側の焦点距離である.

両側球面レンズによる光の収束

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図3 両面が球面のレンズによる光の収束.

前節のガラス球面2枚 (中心C1とC2, 半径 R_1R_2) を組み合わせれば, 図3のようなレンズを作ることができる.
この節でも近軸近似のもとで考える.
点Aにある物が入射側のレンズ面でつくる焦点 (仮にガラスが先ほどのように右側に無限に続いていた場合の焦点) を点 B'とする.
すると出射側のレンズ面での光の屈折は, 点 B'に物があるときの光の屈折が逆向きに起こるときとして考えられる (左右を入れ替えて考えればわかりやすいかもしれない).
すなわち, レンズ面での1回目の屈折は \begin{align} \frac{n_1}{a_1} + \frac{n_2}{b_1} = \frac{n_2-n_1}{R_1} \tag{12} \end{align} であり, レンズ面での2回目の屈折は \begin{align} \frac{n_2}{a_2} + \frac{n_1}{b_2} = \frac{n_1-n_2}{R_2} \tag{13} \end{align} となる (物側からの曲率半径で議論するので, 上の図の2つめのレンズ面は R_2 ではなく -R_2 となる).
レンズの厚みを d とすると, a_2 = -(b_1-d) であるから, 物とレンズと像の間の距離に関する式 \begin{align} \frac{1}{a_1} + \frac{1}{b_2} = \frac{n_2-n_1}{n_1}\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right) + \frac{n_2}{n_1}\frac{d}{(b_1-d)b_1}, \tag{14} \end{align} もしくは右辺 b_1 も消去して \begin{align} \frac{1}{a_1} + \frac{1}{b_2} &= \frac{n_2-n_1}{n_1}\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right) \\ &\quad + \frac{n_1}{n_2} \left(\frac{n_2-n_1}{n_1}\frac{1}{R_1}-\frac{1}{a_1}\right)\!\! \left(\frac{n_2-n_1}{n_1}\frac{1}{R_2}+\frac{1}{b_2}\right)d \tag{15} \end{align} が得られる.
特にレンズが薄い極限 d\to0 (薄肉極限) では(14)式第2項が消えて, レンズメーカーの式 (レンズメーカーの公式) \begin{align} \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{n_2-n_1}{n_1}\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right) \tag{C} \end{align} が得られる.
ただし物とレンズの間の距離を a_1+d/2\to a, 像とレンズの間の距離を b_2+d/2\to b と書き直した.
ここまで来ればガウスのレンズ公式が成り立つのは明らかである.
(C)式は等しい物焦点距離と像焦点距離 f \begin{align} \frac{1}{f} = \frac{n_2-n_1}{n_1}\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right) \tag{16} \end{align} を与えるから, この焦点距離 f をもちいて(B)式を書き直して, ガウスのレンズ公式 \begin{align} \frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f} \tag{A} \end{align} が導かれた.

以上でレンズの公式が証明できました.
当然と言えば当然ですが球面レンズの場合には近軸近似をしないとレンズの公式は成立しないです.
レンズの公式は球面レンズでなくとも成立するはずですが, それを一般の曲面のレンズの場合に証明するのはとても大変そうです (というか可能なのだろうか...?)
また, 近軸近似ではなく3次近似 \begin{align} \sin{\phi} \approx \phi - \frac{1}{6}\phi^3, \qquad \cos{\phi} \approx 1-\frac{1}{2}\phi^2 \tag{8'} \end{align} を用いた場合には球面収差などの諸収差も数式で扱えます.
こういうのを計算してみるのも面白そうですね.
なお参考文献に示したヘクトでは, 途中の(B)式がフェルマーの原理 (光は最短経路を通る) から導かれています.
興味がある方はそちらも見てみてください.
今回はこの辺にしておきます. ここまで読んでいただきありがとうございました.

参考文献

[1] ヘクト 光学I 基礎と幾何光学 (第5版), 尾崎 義治, 朝倉 利光 訳 (2018, 丸善出版).