こんにちは. unvです.
前回の記事 (■) ではガウスのレンズ公式を近軸近似の下で証明しました.
その途中で球面レンズだと完全な焦点はできない (物の1点から出た光線が1点で像を作ることはない)
という球面収差 (Wikipedia: 球面収差) の存在が示唆されましたが, 今回はそれをもう少し厳密に示してみたいと思います.
数式が結構煩雑になってしまいましたが, 収差というものの複雑さを感じていただけると幸いです(白目).
ガラス球による光の屈折 (1回)
図1 ガラス球に光を入射させる. ガラス球の右奥側も全てガラスであるとする. |
図1に前回の記事と同様のセットアップの図を示す.
ガラス球から距離 だけ離れた点Aがガラス球内点B (距離 ) に像を作るとする
(なお とすればガラス球内で光が収束しない, すなわちガラス球内に光が発散していく場合も取り扱える).
空気の屈折率を , ガラスの屈折率を として, 光線の角度は図に記してあるように定める.
このとき光路は幾何的な式
\begin{align}
a+R(1-\cos{\phi}) &= +\frac{h}{\tan{(\theta_1-\phi)}}, \tag{1} \\
b-R(1-\cos{\phi}) &= -\frac{h}{\tan{(\theta_2-\phi)}} \tag{2}
\end{align}
およびスネルの式
\begin{align}
n_1\sin{\theta_1} =n_2\sin{\theta_2} \tag{3}
\end{align}
によって記述される.
(1), (2)式を , について書き直すと,
\begin{align}
\tan{\theta_1} &= \frac{(a+R(1-\cos{\phi}))\tan{\phi}+h}{a+R(1-\cos{\phi})-h\tan{\phi}}, \tag{1'} \\
\tan{\theta_2} &= \frac{(b-R(1-\cos{\phi}))\tan{\phi}-h}{b-R(1-\cos{\phi})+h\tan{\phi}} \tag{2'}
\end{align}
である.
なおこれらの式には近似は入っていない.
前回の記事では「近軸近似」と呼ばれる1次近似を導入した.
これは上の式で
\begin{align}
\sin{\phi} = h/R, \qquad \cos{\phi} \approx 1, \qquad \tan{\phi} \approx h/R
\end{align}
と の1次で近似することに対応する.
今回はこれの次の近似として, の3次までとった3次近似
\begin{align}
\sin{\phi} = x, \quad \cos{\phi} =\sqrt{1-x^2} \approx 1-\frac{1}{2}x^2,
\quad \tan{\phi} \approx x+\frac{1}{2}x^3 \tag{4}
\end{align}
を用いてみる.
3次近似によって(1')式は
\begin{align}
\tan{\theta_1} &\approx \frac{(a+\frac{1}{2}Rx^2)(x+\frac{1}{2}x^3)+Rx}{a+\frac{1}{2}Rx^2-Rx(x+\frac{1}{2}x^3)} \\
&= \left(1+\frac{R}{a}\right) \frac{x+\frac{1}{2}x^3}{1-\frac{1}{2}\frac{R}{a}x^2}
\qquad \approx a'x+\frac{1}{2}{a'}^2x^3 \tag{5}
\end{align}
となり, (2')式は
\begin{align}
\tan{\theta_2} \approx \frac{(b-\frac{1}{2}Rx^2)(x+\frac{1}{2}x^3)-Rx}{b-\frac{1}{2}Rx^2+Rx(x+\frac{1}{2}x^3)}
\approx b'x+\frac{1}{2}{b'}^2x^3 \tag{6}
\end{align}
となる. ただし
\begin{align}
a'= 1+\frac{R}{a}, \qquad b'= 1-\frac{R}{b} \tag{7}
\end{align}
と置いた.
次にこのような を与える を求める:
\begin{align}
\sin{\theta_1} = a_1x+a_2x^2+a_3x^3
\end{align}
とすると
\begin{align}
\cos{\theta_1} &\approx 1-\frac{1}{2}a_1^2x^2-a_1a_2x^3, \\
\tan{\theta_1} &\approx a_1x+a_2x^2+\left(a_3+\frac{1}{2}a_1^3\right)x^3
\end{align}
であるから,
\begin{align}
\sin{\theta_1} = a'x+\frac{1}{2}(1-a'){a'}^2x^3, \tag{8}
\end{align}
同様に
\begin{align}
\sin{\theta_2} = b'x+\frac{1}{2}(1-b'){b'}^2x^3 \tag{9}
\end{align}
(厳密には は変数ではないのでこれらは についての恒等式ではないのだが,
これらの は(5), (6)式の を与えるので, 結果的にこれでよかったとわかる).
これらをスネルの法則(3)式に代入して,
\begin{align}
&n_1(a'x+\frac{1}{2}(1-a'){a'}^2x^3) = n_2(b'x+\frac{1}{2}(1-b'){b'}^2x^3). \\
\therefore~& n_2x^2{b'}^3-n_2x^2{b'}^2-2n_2b'-n_1x^2{a'}^3+n_1x^2{a'}^2+2n_1a' =0 \tag{10}
\end{align}
を得る.
1次近似の下では の項が無視されて
\begin{align}
b'=\frac{n_1}{n_2}a' ~\Rightarrow~\frac{n_2}{b}+\frac{n_1}{a} = \frac{n_2-n_1}{R}
\end{align}
(前回の記事の(B)式) が得られるが, 3次近似の下では(10)式の解より類似の式が導かれる.
(10)式の解は と大きくは変わらないから, (しかし念のため の次数まで考慮して)
\begin{align}
b' \approx \frac{n_1}{n_2}a' + b_1x+b_2x^2+b_3x^3
\end{align}
と近似して(10)式に再代入する.
先程の から を逆算したとき同様これを の恒等式と考えて, 結局
\begin{align}
b_1 = b_3 = 0, \quad b_2 = \frac{n_1}{n_2}\left(\frac{n_2-n_1}{n_2} - \frac{n_2^2-n_1^2}{n_2^2}{a'}\right)\frac{{a'}^2}{2}
\end{align}
を得る. すなわち
\begin{align}
b' = \frac{n_1}{n_2} \left( a' + \frac{n_2-n_1}{n_2} \left(1 - \frac{n_2+n_1}{n_2}{a'}\right)\frac{{a'}^2x^2}{2} \right), \tag{11}
\end{align}
同じことだが
\begin{align}
\frac{n_1}{a}+\frac{n_2}{b}
= \frac{n_2-n_1}{R} \left( 1 + \frac{n_1}{n_2} \left(\frac{n_1}{n_2} + \frac{n_1+n_2}{n_2} \frac{R}{a} \right)
\!\left(1+\frac{R}{a}\right)^2 \frac{h^2}{2R^2} \right) \tag{A1}
\end{align}
もしくは と の対称性を保つように変形して
\begin{align}
\frac{n_1}{a}+\frac{n_2}{b}
= \frac{n_2-n_1}{R} + \left( \frac{n_1}{2a} \left(\frac{1}{a}+\frac{1}{R}\right)^2
+ \frac{n_2}{2b} \left(\frac{1}{b}-\frac{1}{R}\right)^2 \right) h^2 \tag{A2}
\end{align}
とも書ける.
焦点の位置が (レンズの中心からの距離の2乗) でずれていくことを示すこれらの式が,
3次近似の範囲内で物焦点距離および像焦点距離を求める式となる.
縦と横の球面収差
図2 ガラス球にによる平行光の集光. 光線の高さに応じて光線の通る位置が焦点からズレる. |
(A)式の応用として, 図2のようにガラス球に平行光を入射させるときの焦点の大きさの導出を試みる.
このとき であるから, (A1)式は (像焦点距離) を用いて
\begin{align}
\frac{1}{f_{\mathrm{i}}}
= \frac{n_2-n_1}{n_2} \frac{1}{R} \left( 1 + \frac{n_1^2}{n_2^2} \frac{h^2}{2R^2} \right) \tag{12}
\end{align}
である.
とすれば, 像焦点距離
\begin{align}
f_{\mathrm{i}0} = \frac{n_2}{n_2-n_1} R \tag{13}
\end{align}
が再び求まる.
光路と光軸の距離 に伴う焦点距離のずれ は縦の球面収差と呼ばれ,
\begin{align}
\delta f_{\mathrm{i}} &= -{f_{\mathrm{i}0}}^2 \frac{n_2-n_1}{n_2} \frac{1}{R} \frac{n_1^2}{n_2^2} \frac{h^2}{2R^2} \\
&= -\frac{n_1^2}{2n_2(n_2-n_1)} \frac{h^2}{R} \tag{14}
\end{align}
である.
一方像焦点距離における光線と光軸の距離 (いわば集光点における光のスポットサイズ) は横の球面収差と呼ばれ,
\begin{align}
\delta d_{\mathrm{i}} = \frac{h}{f_{\mathrm{i}0}-h^2/2R} \delta f_{\mathrm{i}}
= -\frac{n_1^2}{2n_2^2} \frac{h^3}{R^2} \tag{15}
\end{align}
と計算できる.
以上のように3次近似を用いれば球面収差の程度を導くことができます.
特に焦点付近においては焦点方向 (光軸方向) に , 焦点と垂直方向に の収差ができることが示せました.
前回の記事のように(A)式を2回使えば1枚のレンズを通った後の収差を計算できそうですが, それはあまりにも大変そうなのでやめておきます.
なお, この記事ではスネルの法則を出発点として式を導いてきましたが, フェルマーの原理を用いるともう少し簡単に式が求まるようです ([2]に書いてあります).
そこではアッベの不変量と呼ばれる量 (Abbe’s Invariant) を用いて理論が組み立てられています.
[2]は古い本ですが図書館なんかに置いてあると思うので, 気になる方は見てみてください.
あとは光が1枚のレンズを通った後には他の収差も生じます.
コマ収差 (Wikipedia: コマ収差) は物が光軸上にないときに起こる収差ですが, これも頑張ったら式で扱えそうです.
やる気が出ればやってみたいと思います
今回はここまでにしておきます. ありがとうございました.
参考文献
[1] ヘクト 光学I 基礎と幾何光学 (第5版), 尾崎 義治, 朝倉 利光 訳 (2018, 丸善出版).
[2] 光学, 久保田 広 (1964, 岩波書店).